【行政書士が解説】トラック新法で運送会社はどう変わる?押さえるべき5つの重要ポイント
こんにちは。Ican行政書士事務所代表の矢内(やない)です。
運送業界はいま、かつてない激動のなかにあります。いわゆる「2024年問題」により、このままでは2024年度に14%、2030年度には34%もの輸送能力が不足すると予測されており、社会インフラとしての物流が維持できない「物流の危機」が目前に迫っています。
こうした事態を受け、2025年、業界の構造を根底から変える「トラック新法(貨物自動車運送事業法の一部改正案など)」が成立しました。
日本の運送事業者の99.9%は中小企業です。今回の改正は、大手だけでなく全事業者にとっての死活問題であり、「法令遵守(コンプライアンス)」を軽視する事業者が生き残ることは、制度的に不可能になります。逆に言えば、いち早く備えを始めた企業こそが、次の時代の主役になれるのです。
経営者の皆様が「今、何をすべきか」を、実務の視点から5つの重要ポイントに絞って解説します。
ポイント①:運送業許可の「5年更新制」導入(2028年施行予定)
最大の衝撃は、これまで「一度取れば一生もの」だった運送業許可が、5年ごとの更新制に変わることです。
| 項目 | 改正前 | 改正後(新法) |
|---|---|---|
| 許可の有効期限 | 無期限 | 5年ごとに更新が必要 |
| 審査の主体 | なし(監査のみ) | 独立行政法人等による厳格な審査 |
| 施行時期 | ー | 公布から3年以内(2028年中) |
更新審査では、法令遵守、安全管理、労務環境、財務健全性が厳しくチェックされます。これは学校の「進級チェック」のようなもので、ルールを守れない事業者は市場から退出を余儀なくされます。
【矢内からの助言】 「更新時期が来てから準備すればいい」という考えは非常に危険です。特にアナログ管理のままだと、5年分の膨大なデータを証明できず、審査で足元をすくわれるリスクがあります。日々の点呼や運行記録を、今からデジタルで蓄積しておくことが、5年後の許可を守るための唯一の道です。
ポイント②:「適正原価」を下回る運賃の禁止(2028年施行予定)
これまでの「標準的な運賃」はあくまで努力義務的なガイドラインでした。しかし新法では、国が告示する「適正原価」が、取引価格の事実上の「最低ライン(拘束力あり)」となります。
適正原価には以下の要素が含まれます。
- 人件費(ドライバーの適切な給与)
- 燃料費
- 車両の減価償却費
- 公租公課(税金等)
- 投資費用(DX化や安全性向上のための費用)
【ここが重要】 適正原価には「将来への投資費用」が含まれている点が画期的です。これを下回る運賃での契約は法令違反となり、行政指導や処分の対象となります。「安売り」で仕事を取ることは自首するも同然の行為。今後は原価に基づいた、毅然とした運賃交渉が法的義務となります。
ポイント③:多重下請け構造の是正と透明化(2026年施行予定)
「中抜き」による運賃低下を防ぐため、再委託を原則**「2次下請けまで」**とする努力義務が課されます(2026年中施行)。
再委託の制限ルール 元請(0次) → 1次下請 → 2次下請(ここまでが原則)
また、取引を透明化するために以下の義務が生じます。
- 実運送体制管理簿の作成:どの事業者が実際に運んでいるかを記録する。
- 荷主の閲覧請求権(2025年4月〜):荷主は元請に対し、実運送者が誰かを確認できる。
【経営リスク】 実運送体制管理簿により、荷主はあなたの会社が「どこにいくらで投げているか」を把握できるようになります。不適切な多重構造が発覚すれば、荷主からの信頼失墜や取引停止に直結します。クリーンな委託体制への見直しが急務です。
ポイント④:「白トラ」対策の強化と荷主への重い責任
無許可営業(白トラ)に対する規制が劇的に強化されます。最大の変化は、2026年4月より、違法な白トラを利用した「荷主(注文側)」も罰則の対象になる点です。
荷主が受けるペナルティは、単なる罰金以上に「社会的な信用」に及びます。
- 是正指導:トラック・物流Gメンによる調査
- 要請:国土交通大臣による改善の働きかけ
- 勧告・社名公表:ここが最大のリスク。 悪質な場合、罰金確定前に企業名が公表され、レピュテーションリスク(評判被害)にさらされます。
- 罰則:100万円以下の罰金
「運送会社の許可状況を知らなかった」という言い訳は通用しなくなります。荷主側にも委託先の許可証確認が義務付けられるため、正規の許可を持つ皆様にとっては、改めて自社の健全性をアピールするチャンスでもあります。
ポイント⑤:ドライバーの処遇改善の「義務化」(2028年施行予定)
これまで努力義務だった処遇確保が、新法第24条等により「法的義務」に格上げされました。
- スキル・技能に応じた公正な評価制度の導入
- 適切な賃金水準の確保
- 教育訓練の実施
これらは単なる精神論ではなく、前述した「許可更新」の際の重要な審査項目になります。ドライバーを「安く使う労働力」ではなく、高度な技能を持つ「専門職」として正当に評価し、それを賃金に反映させる人事制度の構築が、事業継続の必須条件となります。
まとめ:新法時代を生き抜くために事業者が今すべきこと
今回の改正には「3年以内の見直し条項」が含まれています。これは制度を固定せず、現場の声を聞きながら進化させる「知的柔軟性」の表れです。この進化し続ける制度に対応するためには、以下の武器が必要です。
- ITシステム・DXの導入: 実運送体制管理簿の作成や原価管理、処遇改善の証明を手書きで行うのはもはや不可能です。IT導入はコストではなく、**「営業許可を守るための投資」**です。
- 補助金の活用: 全日本トラック協会による最大450万円のIT導入支援や、国の補助金を活用して、財務的な負担を抑えながら体制を整えましょう。
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