貨物自動車運送事業許可制度の概要 及び2025年法改正について
貨物自動車運送事業許可制度の概要
及び2025年法改正について
貨物自動車運送事業許可の概要
1.1. 運送業許可とは
一般貨物自動車運送事業許可とは、「他人から依頼を受け、事業用トラック(緑ナンバー)を使い、運賃をもらって貨物を運ぶ事業」を行うために必要な許可である。この事業は、貨物自動車運送事業法に基づき、国土交通大臣または地方運輸局長の許可を受けなければならない。法人・個人事業主を問わず取得可能だが、厳格な要件を満たす必要がある。
1.2. 運送業の事業区分
貨物自動車運送事業は、使用する車両や荷主の数によって以下の3種類に大別される。
| 事業の種類 | 概要 | 通称 |
| 一般貨物自動車運送事業 | 複数の荷主の貨物を有償で運送する事業。 | 運送業、トラック運送業、緑ナンバー |
| 特定貨物自動車運送事業 | 特定の1社のみの貨物を有償で運送する事業。 | 特定運送 |
| 貨物軽自動車運送事業 | 軽自動車や125cc超の自動二輪車を使用し有償で貨物を運送する事業。 | 軽貨物、黒ナンバー |
1.3. 許可が必要なケースと不要なケース
許可が必要な主なケース:
- 取引先(自社以外)の荷物を有償で運ぶ。
- 会計上別会社であるグループ会社の荷物を運ぶ。
- 引越し業を営む。
- 積載車を使い、他社から依頼された自動車を有償で輸送する。
- 霊柩車でご遺体を運ぶ(法律上、ご遺体は「貨物」扱い)。
許可が不要な主なケース:
- 自社で製造・販売した商品を自社のトラックで輸送する(自社の荷物)。
- 無償で他人の荷物を運ぶ(ただし、運賃が別名目で実質的に支払われている場合は違法)。
- 軽自動車(軽トラック)や125cc超のバイクで運送する(別途「貨物軽自動車運送事業」の届出が必要)。
- 125cc未満のバイクで運送する(届出も不要)。
- 許可取得の5大要件
運送業許可を取得するには、「資金」「人」「資格」「場所(施設)」「車両」に関する5つの要件をすべてクリアする必要がある。
2.1. 資金要件
事業開始に必要な資金(所要資金)の100%以上の自己資金を、申請日から許可が下りるまでの間、常時確保していることが絶対条件である。
所要資金の算出項目
所要資金は、以下の項目を積み上げて計算される。事業計画により変動するが、最低でも2,000万円から2,500万円程度になることが多い。
- 人件費: 役員報酬、従業員給与、各種手当、賞与、法定福利費(会社負担分)の6ヶ月分。
- 燃料油脂費: ガソリン、軽油代などの6ヶ月分。
- 車両修繕費: タイヤチューブ費を含む修繕費の6ヶ月分。
- 車両費:
- 購入: 頭金+1年分の割賦金(分割払いの場合)、または取得価格全額(一括払いの場合)。
- リース: 1年分のリース料。
- 土地・建物費:
- 賃借: 敷金・保証金+1年分の賃料。
- 購入: 頭金+1年分の割賦金(分割払いの場合)、または取得価格全額(一括払いの場合)。
- 保険料・税金:
- 自賠責保険料、任意保険料(対人:無制限、対物:200万円以上が必須)の1年分。
- 自動車税、自動車重量税の1年分。
- 環境性能割(旧・自動車取得税)。
- その他費用: 什器備品費、水道光熱費、通信費などの2ヶ月分。
- 登録免許税: 許可取得時に納付する12万円。
自己資金の証明
- 証明方法: 原則として、法人名義(または個人事業主の事業用口座)の預貯金残高証明書によって証明する。
- 確認タイミング: 資金の確認は2回行われる。
- 1回目: 申請日時点の残高証明書を提出。
- 2回目: 審査の過程で運輸局が指定する日付の残高証明書を再度提出。
- 重要事項: 2回目の確認時点で、1回目の残高を下回っていた場合は、その下回った額で評価される。途中で一度でも所要資金を下回ると許可基準を満たさなくなり、申請が不許可となる可能性があるため、申請期間中の資金管理は極めて重要である。
2.2. 人的要件
事業を運営するために必要な人員を確保していることが求められる。
- 最低人員: 合計6名以上が必要。
- 運転者: 5名以上(計画車両数と同数以上)。
- 運行管理者: 1名以上(常勤)。
- 運行管理者と運転者の兼任: 原則として不可(運行管理補助者を選任すればドライバーとの兼任も可能)。運行管理者は基本的には、営業所に常駐し、運行管理業務に専念する必要があるため。
- 整備管理者: 1名以上。運行管理者や運転者との兼任が可能。
2.3. 資格要件
輸送の安全を確保するため、専門知識を持つ有資格者の選任が義務付けられている。
運行管理者
事業用自動車の安全運行を管理する国家資格者。営業所ごとに、保有車両数に応じて定められた人数以上の選任が必要。
- 選任人数: 車両29両までは1名。以降、30両増えるごとに1名追加。
- 資格取得方法: 以下のいずれかを満たす必要がある。
- 運行管理者試験(貨物)に合格する:
- 受験資格: 1年以上の運行管理に関する実務経験、または独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)等が実施する「基礎講習」を修了すること。
- 試験: 年2回(3月、8月)実施。
- 5年以上の実務経験と講習受講:
- 運送事業者の事業用自動車の運行管理に関し、5年以上の実務経験を持つ。
- その期間中に、運行管理に関する講習(基礎講習1回を含む)を5回以上受講している。
- 運行管理者試験(貨物)に合格する:
整備管理者
事業用自動車の点検・整備、保守管理を行う責任者。
- 資格要件: 以下のいずれかを満たす必要がある。
- 3級以上の自動車整備士技能検定に合格している。
- 整備管理者として選任される予定の車両と同種の車両の点検・整備に関する実務経験が2年以上あり、地方運輸局長が実施する**「整備管理者選任前研修」**を修了している。この場合、在籍していた会社からの実務経験証明が必要となる。
2.4. 施設(場所)要件
営業所、休憩・睡眠施設、車庫が法令の基準に適合している必要がある。
営業所(事務所)
- 使用権原: 自己所有の場合は登記簿謄本、賃貸の場合は1年以上の契約期間がある賃貸借契約書で証明。
- 立地:
- 原則として市街化調整区域内には設置できない。(例外として、トレーラーハウスで営業所を設置可能な市町村もある←要調査)
- 市街化区域内であっても、第一種・第二種低層住居専用地域など、用途地域によっては設置が制限される。
- 法令遵守: 建築基準法、消防法、農地法などの関連法令に抵触しないこと。
休憩・睡眠施設
- 場所: 原則として営業所または車庫に併設。
- 広さ: 運転者1人あたり2.5㎡以上の有効な広さを確保すること。
- 設備: 適切な換気、採光、冷暖房設備などが求められる。
- 睡眠施設の要否: ドライバーが自宅で十分な休息時間を確保できない運行計画の場合は、睡眠施設の設置が必須となる。
自動車車庫(駐車場)
- 場所: 原則として営業所に併設。併設できない場合、営業所からの直線距離が地域により定められた範囲内(例:東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の主要都市圏では20km以内、広島県では5km以内、新潟・長野県では5km以内、富山・石川県では10km以内)であること。
- 使用権原: 営業所と同様に証明が必要。
- 広さ:
- 計画する全ての事業用自動車を収容可能であること。
- 車両と車庫の境界、および車両相互の間隔が50cm以上確保されていること。
- 法令遵守:
- 農地法上の農地は不可。
- 屋根付き車庫(有蓋車庫)の場合、営業所と同様に市街化調整区域には原則設置できない。
- 前面道路: 車庫に接する前面道路の幅員が、使用する車両に対して車両制限令の基準を満たしている必要がある。道路管理者発行の幅員証明書等で証明する。
2.5. 車両要件
- 最低車両台数: 営業所ごとに5台以上の事業用自動車を確保すること。
- トラクタ(けん引車)とトレーラ(被けん引車)は、セットで1台とカウントする。
- 使用権原: 購入の場合は売買契約書、リースの場合はリース契約書で証明。
- 保険加入: 緑ナンバー登録後、自動車任意保険について対人賠償無制限、対物賠償200万円以上の補償内容に加入することが義務付けられている。
- 欠格事由:許可が受けられないケース
申請者(法人の場合は役員全員)が以下のいずれかに該当する場合、運送業許可は受けられない。
- 1年以上の懲役または禁錮の刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者。
- 一般貨物自動車運送事業または特定貨物自動車運送事業の許可を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者。
- 許可取消しの原因となった法人の役員だった者も対象となる。
- 許可取消しを免れるために処分決定前に事業を廃止した者で、その届出日から5年を経過しない者。
- 法人の役員に上記のいずれかに該当する者がいる場合。
- 「役員」には、登記上の役員だけでなく、相談役や顧問など、実質的に経営を支配している者も含まれる。
- 申請者や役員が、申請前6ヶ月(悪質な違反の場合は1年)以内に、運送業関連法違反で「輸送施設の使用停止」以上の行政処分を受けている場合。
- 社会保険・労働保険への加入: 加入義務があるにもかかわらず未加入の場合、許可後の手続きが進まず、事実上事業を開始できない。近年、コンプライアンス遵守の観点から特に厳しく審査される。
- 許可申請から運輸開始までのプロセスと期間
4.1. プロセスの流れ
- 事前準備: 許可要件(施設、人員、資金、車両)の確保。
- 申請書提出: 営業所の所在地を管轄する運輸支局へ申請書を提出。
- 役員法令試験: 申請月の翌月以降の奇数月に実施。申請法人の常勤役員1名が受験。
- 試験形式: 50分、30問(○×問題、語群選択問題)、8割(24問)以上で合格。
- 試験範囲: 貨物自動車運送事業法、労働基準法など関連法令13本。
- 再試験: 2回目までに合格しない場合、申請は取り下げとなる。
- 審査: 運輸支局および運輸局による書類審査。標準処理期間は3~5ヶ月。
- 許可証交付: 審査完了後、許可証が交付される。同時に登録免許税12万円を納付。
- 選任届提出: 運行管理者・整備管理者の選任届を提出。
- 運輸開始前確認報告: 社会保険・労働保険の加入証明などを添付し、事業開始準備が整ったことを報告。
- 車両登録: 「事業用自動車等連絡書」の交付を受け、車両を緑ナンバーに変更登録。
- 運輸開始: 許可日から1年以内に運輸を開始する必要がある。
- 運輸開始届等の提出: 運輸開始後、遅滞なく運輸開始届および運賃料金設定届を提出。
4.2. 所要期間の目安
準備開始から実際に運輸を開始するまでには、平均で6ヶ月から1年程度を見込む必要がある。特に物件探しや人員確保に時間がかかるケースが多い。
- 許可取得後のコンプライアンス
5.1. 巡回指導
- 実施主体: トラック協会(適正化事業実施機関)。
- タイミング: 運輸開始届提出後、2~3ヶ月後を目途に初回の巡回指導が実施される。
- 内容: 日報、点呼記録簿、運転者台帳などの帳票類が適切に整備・記録されているかを確認。A~Eの5段階で評価される。
- 結果: D評価またはE評価の場合、運輸局に通報され、監査の対象となる可能性がある。
5.2. 監査
- 実施主体: 国土交通省の運輸局または運輸支局。
- 端緒(きっかけ): 重大事故の発生、悪質な法令違反の通報、巡回指導でのD・E評価など。
- 内容: 事前通知なしに実施され、事業計画の遵守状況、運行管理・整備管理体制、労働条件などを厳しく調査する。
- 結果: 違反が確認された場合、車両使用停止、事業停止、許可取消しなどの行政処分が科される。
- 2025年 貨物自動車運送事業法改正の概要
2025年6月4日に可決・成立した改正法は、運送業界の構造的な課題解決を目指すもので、公布から3年以内に段階的に施行される。
6.1. 主な改正点
- 事業許可の5年更新制の導入
- これまで一度取得すれば永続的だった許可が5年ごとの更新制となる。
- 更新時に法令遵守状況、労務管理、財務状況などが審査され、不適切と判断されれば更新されず、事業継続が不可能になる。
- 「適正な原価」を割る運賃の禁止
- 荷主や元請事業者が、実運送事業者の「適正な原価」を無視した不当に低い運賃で運送を委託・受託することを禁止する。
- 運転者の待遇改善と公正な取引環境の実現を目指す。
- 下請けの原則2次までの制限(努力義務)
- 多重下請け構造を是正するため、元請事業者が下請けに出す場合、原則として再委託(2次請け)までとするよう努力義務を課す。
- 中間マージンによるドライバー手取りの減少や責任所在の曖昧化を防ぐ。
- 無許可業者(白トラ)への委託禁止と罰則強化
- 無許可の運送業者(白トラ)に貨物運送を委託することを明確に禁止。
- 違反した荷主等にも100万円以下の罰金を科す規定が新設され、抑止力を強化する。
6.2. 改正の本質と影響
今回の法改正は、安全軽視やコンプライアンス意識の低い事業者を市場から退出させ、法令を遵守し真摯に事業に取り組む事業者が適正な評価と対価を得られる健全な市場環境を構築することを目的としている。これにより、運送業界全体の信頼回復、ドライバーの処遇改善、そして持続可能な物流の実現が期待される。事業者には、法令遵守体制の一層の強化と、荷主との新たな関係構築が求められる。